わたしを離さないで

わたしを離さないで
イギリスの田舎の私立学校で生活を共にした子供たちの少年時代と凄惨なその後を描いた長編小説。

静かな文章に心をかき乱された。文体が村上春樹に似ているという指摘があったが、わかる気がする。淡々とした感じ、静かな空気が似ている。強い感情を抑制した文章で間接的に綴る。そんな形口調が。

主人公の2人の友人の生き様は、最期の時に発露する感情のその鮮やかさ故に、強く心に残った。人は弱い、それでも運命に立ち向かう。そして死んでいく。幼年期から最期まで一貫して描かれる残酷な人生。。。淡々としているが故にそれが堪えた。

細かい所で気付いた点としては、筆者の女性視点の書き方が秀逸だなあ、と。日常の会話の中で、揺れ動く細かな心の動きや、場の空気、そういったものをきちんと覚えていて後から思い出すことのできる、女性の世界の認識の仕方、+感情のバイアスまでも冷静に描写する主人公の語り、そこから推測される、ひどく淡々とした主人公の人格…それら全てが正確に文字に落とせていてる。これって、なかなか簡単にできる事じゃない。

トータル的に素晴らしい小説でした。読むのしんどかったけど。。。終盤のトミーの慟哭が耳を離れません。どうにもできない自分の運命に抗おうとする姿がすごく悲しく、やりきれない思いになりました。

深い悲しみと諦念に包まれた物語ですが、だからこそ、心を揺さぶるものがある傑作です。