映画『思い出のマーニー』

思い出のマーニー サントラ音楽集


プロローグを見ながら、主人公の課題がかなり明確なのでこれは
いわゆる「行きて帰りし物語」になるんだろうなーと思ってて
ほぼほぼその枠内で話が最後まできちんと展開し収束された印象でした。
終盤のまとめ方が綺麗で、小さな世界の中で書きたいものをきちんとしぼって
まとめた感じです。

反面、その設計意図が見えすぎる印象もあって、
物語的な説得力よりは脚本のプロット的なニーズで話が展開されているようにも感じました。このあたりは難しい所ですね。。

作品の中で展開される世界観は本当に魅力的です。
主人公が滞在する大岩家の雑多な古めかしい家具がちりばめられた部屋の
温かみのある美しさであったり、トマトやスイカのみずみずしさ、
杏奈とマーニーが月夜の夜に遊びに行く湖畔の古びた小屋のぬくもりであったり、
児童文学の世界をここまで絵で表現できるんだ!すごい!と思いました。

また、作中に出てくる大人達はみなそれぞれに優い人たちで癒されました。
大岩夫婦は何があろうと一貫して杏奈の味方であり続けるし
2人とも人生を楽しんでいてチャーミング。
久子さんは、人生の晩年を穏やかに楽しんでいる雰囲気で
上品さと親しみやすさが同居しててめっちゃ素敵なオーラが出てます。

そして、誰よりも自分が一番好きなのは頼子さんで
この人はプロローグの描写からして、明らかに不器用で心配性なんだけど
杏奈を愛していて、幸せになってほしいと一生懸命なんですよね。
そして、それが上手くいっていないのが杏奈との会話を見てると明らかにわかる。
杏奈を新幹線で田舎に送り出すときに、さびしそうに笑いながら涙を流すシーンが冒頭に
あるんですが、それを見てるこっちも泣きそうでした。
すごく想ってるんですが杏奈の心が閉じてるので、全然伝わっていないんですよね。。

その後、劇中で暫くの時間が流れ、最後のEDのシーンで、杏奈が一度だけそれまでおばちゃんと呼んでいた
頼子を「母です」と紹介したときに、「!?」となってそれから、
うれしそうに涙をぬぐうシーンがあるんですが何かそのときに「よっしゃー!!」みたいな感じで
ガッツポーズをしてしまって・・・笑
気がつけば、杏奈ではなく、頼子さんに共感して見てました。

マーニーの晩年の描写もそうですが、この作品の世界には
子供を育てる母親の願いとその報われなさみたいなものがある種の諦観として横たわっていて、
そういう空気感が逆に物語にある種の優しさを与えている気がします。
多分なんですがマーニーって、子供が大人になれないまま母親にならざるを得なかった人で夫に先立たれ
独りになってしまった時に多分色々な事をどうしていいかわからなかったと思うんですよね。

だから、娘をどうしていいかわからなくて、その中で最善の選択だと思って、
娘を全寮制の学校に入れたらそれが全て裏目に出てしまって。
親子関係は崩壊し、分かり合えないまま娘と死別し。

それでもマーニーは生来の女の子的なほがらかさは失わなかったし、
自分は家族に恵まれなかったからせめて孫には幸せを感じてほしいと思って
一生懸命育てたんだろうなーと。
そういうのを想像すると、とてもやるせないのですが、でもなんか優しい気持ちになります。

だから、マーニーがサイロで旦那さんの思い出を孫に語るシーンは好きです。
人生の苦難を経験してすっかりおばあさんになってしまいましたが、子供の頃の数少ない鮮やかな経験を
まだ忘れずに持っているというのがわかる素敵なシーンだと思います。