化物語 西尾維新 歪んだ世界で抱く純粋な想い
戯言シリーズ以来、久しぶりの西尾維新。いやー、相変わらず軽いけど面白い。さくさく読める娯楽小説ですね。
「そんなこんなで、なにはともあれ」
あらかた、星座の解説を終えて―
戦場ヶ原は、平坦に言った。「これで、全部よ」
「ん……? 何がだ?」
「私が持っているもの、全部」星空を見上げたままで
言う戦場ヶ原。「勉強を教えて
あげられること。
可愛い後輩と、
ぶっきらぼうなお父さん。
それに―この星空。
私がもっているのは、
これくらいのもの。
私が阿良々木くんにあげられるのは、
これくらいのもの。
これくらいで全部」
この台詞の背景に、
ひたぎの歪んでいるけど強い愛情―できるだけ沢山のことをしてあげたい。でも、自分は多くのものを捨てて今ここにいるから、与えられるものは限られているだからこそわずかに手元に残った大切な財産を惜しみなく与えたい。
それが自分にできる最大限のこと―的な背後の気持ちが見えてきてなんかもう、いてもたってもいられなくなります笑妄想が止まらない笑
西尾維新の、歪んだ人間観(まともな人間なんていない)、にもかかわらず、人の純粋な気持ちを信じたい、と思ってるようなとこが好きです。世界が歪んで見えるからこそ、人の意志が尊く見える・・・みたいな。
「わかるか?戦場ヶ原。
ついてき欲しくないからって
―逢う人間全員に、
そんな台詞を言わなくちゃ
いけない奴の気持ちが、
お前に分かるってのか?
頭を撫でられそうになったら、
その手に噛みつかなくちゃ
いけない奴の気持ちなんて―
僕には全く分からないぞ」
「でも、わからなくても、
それでも、
自分が道に迷っているときに
―1人でいるときに、
そういうことを言わなくちゃ
ならない気持ちを、
それでも―僕もお前も、
違う形で、
経験してきているはずだろう。
同じ気持ちじゃなくても、
同じ痛みを抱えてきたはずだろう。」
苦しいときに、こんなことを言われて、心が動かない人がいるでしょうか?このひどくまっすぐで純粋な気持ちゆえに、阿良々木君は物語の中でヒーローとして存在できるのです。
社会や組織という概念抜きに、閉じた世界の中で個人対個人という関係でしか有効性を発揮しえない考え方だとは思いますが。
※集団の利益を優先した結果、個々人のそういった痛みが黙殺されることはわりとよくあります。ほんとは良くないことなんだけど。
でも、だからこそ、そういった気持ちは尊いのです。そういった想いは現実には、回収されないほっとかれがちだしその想いの全てが回収されることは恐らくこれからもきっとないだろうとどこかで諦観するからこそ、阿良々木君が上記台詞をはきボロボロになりんがらも人を救済していく姿にぐっときました。