アクセルワールド 川原礫 2.補足記事:黒雪姫の地上と空



■≪地上≫と≪空≫というメタファー/基本的なストーリーライン


 本作品の中には、繰り返し繰り返し≪地上≫と≪空≫という表現が出てきます。≪地上≫は、「閉塞を感じる現状」の象徴であり、≪空≫はその現状を突破したいという突破願望、あるいは現状からの脱出願望の象徴です。


≪空≫への憧憬がありつつも諦めに満ちた現状=≪地上≫に這いつくばっていた、少年が少女と出会うことで現状を打破せんとする意志を取り戻し、現実と戦う中で≪空≫へ到達する手段=翼を手に入れ、ブレークスルー(困難の突破・飛躍)を達成するというのが本作品の物語の骨子となっています。


■黒雪姫の≪地上≫と≪空≫

 『思考を加速し、カネや成績や、名声を手に入れる。本当にそんなものが我々の戦う意味であり、求める報酬であり達し得る限界なのか? もっと……もっと先があるんじゃないのか……?』


ハルユキだけでなく、黒雪姫にもまた、現状に対する閉塞感があります。それが何なのかは作中では明快に語られませんが、大きく分けて以下2点だと推測されます。

?「ここが自分の限界なのか?もっと先があるんじゃないのか?」という飽くなき上昇志向
?「人生において本当に価値のあるものは何のか知りたい」という実存欲求


しかし、上記の欲求(渇望?)を追い求めるが故に、かつての仲間を裏切ったという過去故に、黒雪姫は自分を自己の欲求のためだけに生きる醜い利己的な人間だと捉えていて、それが彼女のあり方に影を落としています。そんな黒雪姫がハルユキに出会い、ハルユキを「守ってあげたい、包んであげたい」という想いに目覚める過程で黒雪姫もまた、ある種の救いを得たというのが本作品の隠れたサイドストーリーだと思ってます。つまり、ハルユキと黒雪姫はお互いに足りないものを与え合う関係になれたいんですね。それはとても幸せな事だと思います。

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